2017年4月4日火曜日

33年ぶりのアナログ回帰

先日、広島の実家に帰ったときのことである。
“遺産の生前分与”というわけでもないだろうが、
88歳になった親父がレコードを譲りたいと言い出した。
CBSソニーのクラシック音楽全集が100枚近くあるという。
親父はクラシックが好きで、
若い頃はスピーカーを自作したこともあるというから、
それなりのオーディオマニアでもあったのだろう。
ぼくが幼い頃には、
我が家に家具調の立派なレコード収納棚があって、
78回転のSP盤が大量に入れてあったのを記憶している。
残念ながら大半は火事で焼失してしまったが…。

ぼくはそんな親父の血を引いたらしく、
若い頃はかなりオーディオに凝っていた。
ぼくの場合は
(自分が生まれた前後の)古いジャズが中心だが、
クラシックや浅川マキ、山口百恵などもあって、
新人時代を過ごした釧路の狭いアパートに
大きなオーディオ装置を持ち込んで聴いていたのである。

ところが、釧路から東京に転勤すると(33年前)、
社宅としてあてがわれたアパートがあまりに狭かった。
6畳のワンルームというふれこみだったが、
団地サイズなので実質的には四畳半。
それも洋間なのでベッドを置かなければならない。
本棚とテレビを入れると机も置けず、
仕事をするときにはベッドに腰かけて
折り畳み式のテーブルを開かなければならなかった。
オーディオどころの話ではなかったのである。
オーディオ装置一式と
100枚以上あったレコードはすべて広島の実家に送った。
その後は、
コンパクトなオーディオ装置を求めて聴いていたが、
専らCDで、
アナログレコードとは縁を切った格好だった。

22年前に現在の釧路の家を建てたときに
やはり大きなスピーカーで音楽を聴きたくなって、
タンノイの中古品を買い求めて部屋に置いた。
アンプはアキュフェーズのプリメインで、
MCカートリッジにも対応するphono入力を備えていた。
しかし、このときも、
いまさらアナログに戻ろうという気にはならず、
レコードプレーヤーを置くスペースは用意しなかった。

死を意識せざるを得ない年齢の親父が
大切にしていたレコードのコレクションを
むざむざゴミにしたくないと思う気持ちはよく解った。
親父の一言がきっかけとなって、
ぼくは三十数年ぶりに
アナログの世界とよりを戻すことになったわけだ。
とはいえ、
ぼくのと合わせて二百枚以上になるだろうレコードを
狭い東京のマンションに持ち込んだのでは、
かみさんの逆鱗に触れるハメになるのは間違いない。
だから、レコードは釧路に送ってもらうことにした。
プレーヤーはかつて使っていたパイオニアのPL70LⅡが
広島の実家に置いたままになっていたが、
これがあまりに大き過ぎて、
釧路の家にも設置する場所を確保できないことが判明。
大判の本を並べていた棚を空けて、
そこに置ける大きさのプレーヤーを新しく買った。


30数年ぶりに買ったレコードプレイヤーは
イギリス製のRega Planar1というもので、
すっきりして無駄のないデザインが気に入った。
機能もミニマムである。
ぼくの場合、
phonoイコライザーはアンプに内蔵されているし、
アナログ音源をデジタル化するつもりもないから
USB出力も要らない。
そうした余計な機能のついていない
ただ音楽を聴いて愉しむための本格的なプレーヤーで、
一番安いものを探したらこれになった。
カートリッジは専用のものがついているので、
面倒な調整が一切必要ないのが楽である。
もし、これより上のクラスのものを買ったとしたら、
やれシュアーだ、オルトフォンだと、
カートリッジを取っ換え引っ換えして
(かつてそうだったように)夢中になるのは明らかで、
凝り性の自分の性格を考えて自制したところもある。

プレーヤーが届いてすぐに設置したものの、
肝腎のレコードがまだないので音を聴くことができない。
そこで試聴用に、
amazonでノラ・ジョーンズのアルバムを一枚買った。
デビューアルバムの「COME AWAY WITH ME」である。


さっそく鳴らしてみると…記憶していたよりいい音がした。
透明感があって、
刺激的なところが全くなく、
ノラの声が深く伸びやかに聞こえる。
レコードが新しいからだろうが、スクラッチノイズも皆無。
これならCD以上に音楽に没入できそうだ。


スピーカーが同じイギリス製であるのみならず、
そもそもアナログ時代の製品だから相性がいいのだろう。
聴き慣れた音源で聴き比べてみないことには
CDとの音質の違いにはっきりしたことは言えないが、
久々にアナログの魅力を再認識した。
少なくとも、
レコードに覚えるモノとしての「愛着」は、
CD時代にはすっかり忘れていた感覚だった。

しかし、ぼくも既に60歳を超えている。
26歳の息子はオーディオには関心などなさそうだ。
いつかぼくが死んだら、
親子二代のコレクションはどうなるのだろうか(笑)。


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