ぼくの「食べログ」

仕事の第一線を退いて一年になるが、現役時代は本当に出張が多かった。
それも海外出張はせず、
もっぱら日本の地方を歩き回っていたのである。
ぼくは酒飲みだから、
出張の夜はまず、その街で飲み食いする場所を探す。
地元の人やタクシーの運転手さんに訊くこともあったが、
それほど大きくない地方都市だと
繁華街をぐるり2周くらい歩きまわって良さそうな店の目星をつけた。
30年以上それをやってきたから、
次第に鼻が利くようになって打率はけっこう高かったと思う。

近年ではインターネットの発達により
「食べログ」などという便利なものもできて、
それを参考にすることも増えた。
経験的に言えば、
「食べログ」で3.5以上の得点を得ている店ならまず間違いはない。
しかし、所詮はネットの人気投票で、
こうしたものに頼っていると嗅覚が鈍るなあ…という危機感もある。

東日本大震災以降、東北での取材が増えたが、
盛岡、福島、相馬、南相馬、いわき…
よく通うことになった街には何処にも「行きつけの店」ができた。
その街に泊まれば必ず行きたくなる店。
しかし、ふと気がつけば、
そのなかに「食べログ」で探した店はない。
昔ながらに自分の足で見つけたか、
地元の人に教えてもらった店ばかりである。
「食べログ」は便利だが、
平均点評価の限界というのだろうか、
クセになるほど個性的な魅力のある店が埋没してしまうのかもしれない。

さて。
ぼくは東京の西荻窪に住んで2年半になる。
その前は隣の荻窪に10年いた。
だからこの界隈にはそれなりに詳しい。
気に入っている飲食店(というか、飲み屋w)を何軒か紹介してみよう。
すべて「自分の足で歩いて探した店」だが、
参考までに「食べログ」による評価を付記する。

まずは荻窪駅北口の和食「有いち」。
先週の土曜日に妻と二人で食事をしたが、
開店してちょうど10年になるという話だった。


ぼくはこの店ができたときに気がついて、
ちょっと敷居が高そうな気がしてしばらく入るのを躊躇していたが、
ある日、意を決して暖簾をくぐるとこれが大変いい店だった。
主人はまだ若い人だが、
名のある料理店で修行してきたらしく、
きちんとした折り目正しい料理を供する。
目が利くのだろう、魚はとても状態のいいものを使っている。


おまかせコースが税抜き6千円からで、
安い店とは言えないがコスト・パフォーマンスはとてもいい。
ぼくはコスパ重視派なので、
1万円でも安い店があれば、2千円で高い店もあると思っている。
そういう意味で言えば、「有いち」は安い。


見た目も美しく味もいい小鉢は、
先週の土曜日で言えば、
海鼠、新筍、白魚と山葵菜の和えもの、
蛍烏賊と野蒜の酢味噌、自家製からすみなど。
〆にはなかなかの蕎麦が出る。
「食べログ」での評価はきょう現在3.58と高い。
そのためか、
最近では、ふらっと立ち寄っても入れないことが多くなった。
週末は予約をとるのも難しい。
開店当時からのファンとしては痛し痒しの思いだが、
主人は最近は地元のお客さんが増えたと喜んでいる。
こうした店が銀座や赤坂、六本木ではなく、
地元にあることの幸せを思う。
主人が若く研究熱心なだけに、まだまだ伸び代がありそうだ。

ぼくが住んでいるマンションから、
神明通りを環八方面に2〜3分歩いたところに
ワインとイタリアンの店、「upim」がある。
「足で探した」も何も、これだけ近いと嫌でも気がつく。
駅前の繁華街とは離れているが、
マンションの下見に行ったときに“発見”した。
ある日、覗いてみると、
スキンヘッドの
一見怖そうなお兄さんがやっているのでちょっとビビったが、
その実は心優しきバードウォッチャーである。


「upim」は洋風居酒屋、バールといった佇まいの店で、
前菜を何品か頼んでワインを飲み、
旨いパスタで締めるという使い方をしている。
ワインはトスカーナもあるが、
ラツィオやシチリアなどの安くて旨い銘柄を揃えているのが特徴。
ハウスワインもなかなかのもので、従ってコスパは上々である。


この店の特徴の一つはピザが美味しいことで、
酒飲みでピザをそれほど好まないぼくが食べても旨いと思う。
妻などは太る、太ると言いながら必ず注文する。
オーソドックスなマルガリータも旨いが、
シラスのピザ(写真)もいい。
「食べログ」の評価は3.06で、
それほど高くないので、これは穴場である。
それでも、
この店の味を知る地元の人たちでいつも賑わっているのだが…。
研究熱心な主人夫婦は、現在、店を休んでシチリア旅行中。
今月下旬には帰ってくる予定で、
土産話と新しい食材、料理を常連客は心待ちにしているところだ。

神明通りを逆に西荻窪駅方向に5分ほど歩くと
「鳥や 斉藤」がある。
(最近、外装を変え、店名も「SETO」と変えたようだ。)
若い男性三人組が切り盛りする店で、
七輪の網の上で焼く軍鶏肉、数量限定の軍鶏鍋が売り物である。
この店もコスパが抜群。
店の内装は三人の手作りによる素朴なもので、
料理も手作りの豆腐や漬物が大変おいしい。
自家製ドレッシングがいいので、サラダも美味しく、ヘルシーである。


特筆すべきは軍鶏親子丼(650円)の美味しさで、これは絶品。
だから、休肝日に行くことも多い。
「食べログ」の評価は3.03だが、実力はそんなものではない。
行くたびにメニューが少しずつ増えている、発展途上の店。
駅前の繁華街を離れた立地だが、これも先が楽しみな店である。

一年前に仕事を退いて、
いまは「暇はあるけど金がない」状態。
現役時代に比べて、家飲みが圧倒的に多くなった。
そのうえ我が家の両側、歩いて数分のところに、
「upim」「SETO」のような
安くて旨い店があるとだんだん出不精になってしまう。
それでも、
西荻窪駅南口界隈は飲んべえには極めて蠱惑的なエリアで、
つい引っかかりたくなってしまうのも事実だ。
その南口界隈で最近気に入っている店をもう一軒。
「もつ吉 西荻窪店」である。


「もつ吉」は京風もつ鍋と肉の刺身が名物の店で、
荻窪駅北口に本店、すずらん通りに分店があることは知っていた。
店の外観がなかなかいい感じで、
試しに「食べログ」を調べてみるとそれぞれ3.55、3.25と評価も高く、
一度行ってみたいと思いながら機会を得られずにいた店である。
それが去年の暮れ、我が西荻にもあるのを見つけたのである。
「食べログ」での評価は3.07と他の2店より低いが、
基本的に同じ肉を使っているはずで、
このあたりがネット情報のいまいち信頼性に欠けるところである。


ぼくはもつ鍋は脂が強すぎて口に合わないが、
陶皿の上で焼いたもつ焼きが気に入っている。
妻や息子と一緒に家族で利用することが多い店だが、
二人ともかなり気に入っているようだ。


そして何より、
低温調理によって生肉に近い味わいを出した“刺身”が美味。
他では食べられない牛レバーのほか、
軽く炙ったハラミやミノの湯引き、ガツぽんなども旨い。
京野菜の九条葱をふんだんに使った和風の味が日本酒によく合い、
その日本酒も「澤屋まつもと」など京都の地酒を中心に、
「黒龍」「東洋美人」「風の森」など実に嬉しいセレクションである。

この店の面白いところは、
ネットで会員登録をすると様々な特典があるという今様の設定で、
先日、ぼくの誕生日に際しては、
売価3500円のワインを一本プレゼントしてくれた。
なかなかの太っ腹である。
週末は予約でほぼ満席みたいだし、
カウンターがないので一人では落ち着かないかもしれないが、
そのうちふらっと立ち寄ってみたい店である。








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