仙台がだんだん好きになる…

東北Z「第6仮設住宅の人々」(9/14放送)が完成した。
仕事が終わった夜ほど解放感を感じるときはない。
明後日にはまた南相馬ロケで、
引き続きNHKスペシャルの編集が始まるが、
明日一日だけは休むことができる。
「第6仮設…」の仕上がりに満足していることもあって、
浮き浮きした気分で夜の仙台の街に出た。

夕食は文化横丁の「小判寿司」で。
江戸前風の仕事をしている店と知って、
これは一度は行かねばなるまいと思っていた。
ネットで一番人気の店だけに
下手をすれば満席かと心配していたが、
カウンターに先客は一組だけで、すぐに通された。
ビールがアサヒドライらしいのは気に食わないが、
魚を食べるときにはビールは飲まないので関係ない。
日本酒は宮城の地酒専門に充実していて、
一杯目は石巻の日高見、
二杯目は塩釜の於茂多加(阿部勘)のそれぞれ純米酒。
目の前のケースに
まだ「新子」でも通用しそうな小ぶりな小鰭があるので、
隣に鎮座まします鯵と一緒につまみでもらう。
ともに大変な美味で、
一瞬にしてこの寿司屋の実力のほどを理解する。
さらに新イカ(紋甲烏賊の子)とゲソをつまみ、
珍味はないかと訊ねたら、
鮑の肝煮、続いて海鞘の塩水浸しを出してくれた。
ご機嫌である。
天然の鰻が入っているからと勧められたが、
酒を飲みすぎることになりそうなので断って、
早めに寿司を握ってもらうことにする。
最初の注文はやはり小鰭と鯵で、〆具合がとてもいい。
特に鯵は酢が強すぎず、淡すぎずの絶妙な塩梅。
酢飯は赤酢で、
古風な味わいが「仕事のしてある」ネタを引き立てる。
白身はホシガレイで適度の歯応えがあり、これも美味。
新イカは、主の言葉通り、握りにした方がより旨かった。
鮪のヅケは、北海道戸井産と地元塩釜産の味比べ。
(戸井の方が脂が滑らかで僅差の勝利。両方旨いが…)
この季節にはいつも注文する蒸し鮑、
そして冬の蛤に替わる浅蜊の寿司は初めての味だ。
煮穴子は塩で食べるのが珍しいが、これも上品な美味。
かんぴょうも、どことなく古風な味つけで大変よろしい。
仕上げには、いつものように小鰭と鯵をもう一度。
11貫と巻物1本、酒が2杯にあれこれつまんで1万円弱。
質を考えればこの値段は安く、
東京も銀座あたりで食べれば倍ではきかないだろう。
これだけの寿司を仙台で食べられるなら、
東京に帰らなくてもいいかなという気になる。
(もともと寿司と蕎麦を除けば、
 大概のものは仙台の方が安くて旨いと思っていた。)
2年限定という口約束で仙台に転勤してきているのだが、
もう1年くらい居ようかな?

とても気分がいい。
「小判寿司」のはす向かいにある路地の奥、
居酒屋「源氏」も名店なのでもう一杯飲ろうかと思うが、
辛くも自制して我が家に向かって歩き始めた。
しかし、途中でJazz Barの「Count」を避けきれず、
あえなくひっかかってしまった。
この店も素晴らしい。
古いジャズが好きで結構いろんな店に行っていると思うが、
この店の音がぼくの知る限り最高である。


店の奥にでんと鎮座するのは往年の銘機ALTEC A5。
Voice of Theaterとして知られる
アメリカの業務用のスピーカーの最高峰である。
ぼくは学生時代、
このA5、あるいは弟分のA7に憧れていた。
A5は当時でもペアで100万円くらいしたはずで、
とうてい手が出るものではなかったが。
(買えたところで置く部屋もなかったのだが…。)
2wayでいま風に帯域が広いというのではないが、
ジャズのスピリットの部分を
これほどビビッドに伝えてくれるスピーカーはない。
当時人気のJBLより、ぼくはALTECの方が好きだった。
この「Count」では音源は専らレコードで、
カートリッジは確かシュアーだと聞いたように思う。

この店には古き良きアナログの香りが横溢している。
店に入ったとき
かかっていたのはフィニアス・ボーンJrで、
続いてソニー・クラークの「Sonny'sCrib」、
ドナルド・バードにカーティス・フラー、
さらにコルトレーンというホーン・セクションが凄い。
A5のホーンからドナルド・バードが飛び出してくる。
熱い。炸裂するようなトランペットの響き。
ぼくが生まれた翌年に録音されたはずの音楽が、
半世紀以上の時を超えてぼくを揺り動かす。
それからローランド・ハナのピアノ…
ゆるゆると酔いがまわっていく。
ボトルを入れてあるので、
料金は500円ぽっきりというのがまた泣かせる。

仙台がだんだん好きになる…

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